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分子内分泌研究部で取り組んでいる研究を紹介します。

先天性内分泌疾患・性分化疾患・成長障害疾患の網羅的遺伝子解析
インプリンティング疾患の網羅的遺伝子解析
患者臨床像解析
新規病態・新規責任遺伝子の探索
培養細胞を使ったin vitro解析
遺伝子改変マウスを使ったin vivo解析
遺伝子診断の持続性を担保するための仕組み作り
育児ビッグデータの解析


先天性内分泌疾患・性分化疾患・成長障害疾患の網羅的遺伝子解析 

 近年の研究により、先天性内分泌疾患、性分化疾患、成長障害疾患の数%~最大70%以上がなんらかの単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)であることが明らかになってきています。単一遺伝子疾患を遺伝子レベルで正しく診断することは、合併症予測に基づく先制医療や遺伝カウンセリングなどに応用でき、患者さんごとに個別化・最適化された診療を行う上で中核的な位置を占めます。
  一方、現実的に先天性内分泌疾患、性分化疾患、成長障害疾患の遺伝子診断を行う際の技術的問題として、それぞれの疾患(例えば「先天性下垂体機能低下症」)の発症に関わる遺伝子(これを責任遺伝子と呼んでいます)の種類が10種以上にのぼることです。精密な遺伝子診断のためにはこれら10種以上の遺伝子をすべて解析すべきですが、従来の技術では人的・経済的コストの制約のため、一部の遺伝子のみを解析対象としていました。当研究部では、このような遺伝子診断に対する臨床的ニーズに応えるため、次世代シーケンサー解析、アレイCGH解析に代表される先端的な遺伝子解析技術をいち早く導入し、内分泌関連領域の高精度遺伝子診断の医療実装を推進しています。

コラム:MIRAGE症候群の疾患概念確立
当研究部の鳴海は、前所属(慶應義塾大学小児科)において行った、次世代シーケンサー解析を中心とした国内共同研究により、我が国の指定難病である先天性副腎低形成症の新しい病型を発見しこれをMIRAGE(ミラージュ)症候群と名づけました(Narumi S et al., Nat Genet 2016)。MIRAGE症候群の原因は、SAMD9(サムドナイン)と呼ばれる、機能未知の遺伝子の異常です。SAMD9は正常な副腎の発生や機能にも関わっていると考えられます。現在、当研究部では、MIRAGE症候群患者さんの遺伝子診断研究を行うと同時に、遺伝子工学的手法を用いたSAMD9の分子機能解析を精力的に行っています。


インプリンティング疾患の網羅的遺伝子解析 

 高等生物は父に由来する遺伝子と母に由来する遺伝子を2つ1セットとして受け継ぎます。ほとんどの遺伝子では、父由来・母由来の両方の遺伝子が機能しますが、例外的に父由来のみ、母由来のみのいずれかのみが機能を発揮する遺伝子が存在し「インプリンティング遺伝子」と総称されています。これらインプリンティング遺伝子に生じるゲノム異常、エピゲノム異常により起こる遺伝子疾患をインプリンティング疾患と呼び、Prader-Willi症候群、Beckwith-Wiedemann症候群などが代表的です。インプリンティング遺伝子の解析には、PCR-シークエンスやアレイCGHといったゲノム解析の技術に加え、エピゲノム解析技術が必要であり、検査会社での解析はほとんど行われていないこともあり、国際的にみても数か所の解析拠点で集中的に解析が行われている状況です。当研究部では日本全国のみならず、海外からもインプリンティング関連疾患の検体を受けつけており、独自開発した網羅的エピゲノム解析パイプラインでのシステマティックな研究解析を継続しています。

コラム:鏡-緒方症候群の疾患概念確立
当研究部の鏡、緒方らの研究により、14番染色体インプリンティング遺伝子発現異常を原因とするインプリンティング異常症症例を発見し、その臨床的特徴を報告しました(Kagami M et al., Nat Genet 2008)。その後、疾患概念を確立し、本疾患は鏡-緒方症候群と命名されました(Kagami et al., Eur J Hum Genet 2015)。鏡-緒方症候群の患者さんは、特異的な臨床像としてベル型・コートハンガー型の小胸郭、特徴的顔貌(前額突出、長い人中、乳児期に認める豊かな頬)を、特徴的な所見として、腹壁の異常(臍帯ヘルニア、腹直筋離開)、羊水過多、胎盤過形成、哺乳不良を示します。現在、指定難病となり、臨床研究が継続されています。


患者臨床像解析

 当研究部では上記の網羅的なゲノム解析・エピゲノム解析研究を持続的に遂行しており、これまで5,000名以上の患者さんの遺伝学的解析を行ってきました。蓄積された遺伝学的異常の情報と臨床情報をつきあわせることにより、疾患重症化因子の同定、日本人患者さんに特徴的な異常パターンの解明、臨床症状の幅広さ(スペクトラム)の解明などを行っています。これらの研究を通じて、同じ病名の疾患でも、その原因病態により気をつけるべき臨床的ポイント(合併症、予後、遺伝性など)が変わりうることがわかりつつあります。このような知見は、患者さんごとに個別化・最適化された診療の提供に役立てることができます。

コラム:MAMLD1異常症の疾患概念確立
当研究部では、X連鎖遺伝を示す筋疾患(myotubular myopathy)において男児の外陰部異常(尿道下裂)を合併する場合があることを端緒にゲノム構造異常を有するX染色体に着目し、尿道下裂に関わる遺伝子の特定に成功しました(Fukami M et al., Nat Genet 2006)。発見当時、特定された遺伝子に名前がついていなかったため、これをMAMLD1(マムルディーワン)と名づけることを提唱し、国際的に承認されました。MAMLD1変異陽性男性では小児期の血中男性ホルモン値に異常がありません。このことから、MAMLD1は胎児期の男性ホルモン産生酵素の活性化を介して、男性外性器の形成に関与すると推測されています。遺伝子欠損マウスを用いた検討でも、この仮説を裏付けるデータが得られています。


新規病態・新規責任遺伝子の探索

 上述した網羅的解析を行っても、なお、疾患に関わる遺伝子を特定できない「原因未知」の患者さんの検体を対象として、次世代シークエンサー解析、アレイCGH解析、網羅的多型マーカー解析などを行い、積極的に新規責任遺伝子やゲノム構造異常の探索を行っています。新規発症メカニズムの発見は、当該疾患の遺伝子レベルでの診断を可能にする他、診断や疾患の進行度を把握する上で役立つマーカーの同定や治療標的の同定に応用することができます。

培養細胞を使ったin vitro解析

 患者さんの検体において遺伝子レベルの変化を捉えた場合であっても、その変化が疾患原因か否か、直ちには判断できない場合があります。当研究部では、遺伝子診断の精度そのものに関わるこのような病原性に関する判断を可能な限り正確に行うため、随時アップデートされる最新のバイオインフォマティクス解析手法をルーチンで使用すると同時に、必要に応じて培養細胞を用いたin vitro解析を行っています。具体的には、遺伝子導入実験、ノックダウン実験、各種レポーターアッセイ、蛍光タグ付加実験、タンパク質抽出実験、タンパク質相互作用実験、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析などを、研究課題にあわせて組み合わせて用いています。このような解析は、変異が本当に疾患原因であるか否かを判断する上で役立つのみならず、当該遺伝子の生体における機能や役割の解明にも重要な知見となります。

遺伝子改変マウスを使ったin vivo解析

 遺伝的変化の細胞レベルでの影響は上記の培養細胞を用いた実験で検証できますが、患者さんで実際に起きている疾患は、細胞が集まってできている「組織」「臓器」レベルであることがほとんどであり、より忠実な病態の再現と分析には、生物を使った研究が必要になります。当研究部では遺伝子改変(遺伝子欠損)マウスを使って、内分泌関連疾患の病態を再現する研究を従前より行ってきました。2013年にゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムによる遺伝子改変マウスの作出が初めて報告され、個体作製にかかる期間が大幅に短縮され、患者さんに生じている遺伝学的異常を少なくともDNAレベルにおいては正確に再現できるようになりました。当研究部でも国立成育医療研究センター研究所・システム発生・再生医学研究部との共同研究のもとこの技術をいちはやくとりいれており、特異な臨床像を呈するNR5A1変異の病態解析などで成果をあげています(宮戸ら、2016年;五十嵐ら、2017年)。このような疾患モデルマウスの表現型解析から、生体内における当該遺伝子の機能を明らかにできます。疾患モデルマウスの基礎データの集積は、患者さんがのちに発症する可能性のある病態の予測にもつながります。爆発的な勢いで展開中のゲノム編集技術による遺伝子疾患解析を今後もより一層進めてゆく予定です。

遺伝子診断の持続性を担保するための仕組み作り

 従来、遺伝子診断は研究室レベルで行われており、研究者個人への依存度が極めて高い状況でした。例えば、ある時期までできていた遺伝子診断が、担当研究者の海外留学などを契機に突然にできなくなるようなことがしばしばありました。このような遺伝子診断の持続性を担保するためには、特定の個人に依存しないシステムの構築が必要となります。当研究部では、研究的解析を研究部で受ける一方で、公益財団法人・かずさDNA研究所、NPO法人・オーファンネットジャパンなどと連携し、継続可能な遺伝子解析技術の提供を目指した基盤作りに取り組んでいます。

育児ビッグデータの解析

 小児科学では子どもを「成長・発達する存在」と定義しています。成長とは身長や体重など測定可能な指標の量的変化を、発達とは運動や言語などの質的変化を意味します。先天性内分泌疾患を含む小児科の病気にはこの成長と発達に影響するものが多く、小児科医には、病気の診断・治療と同時に、子どもたちの成長・発達を正常化させることが求められます。成長・発達の異常をより早く検知するためには、成長・発達の「正常の幅」を把握することが重要ですが、ダイナミックな変化を遂げる乳児においては、成長・発達に関する大規模データがありませんでした。当研究部ではこのような小児科学共通の課題を解決するため、スマートフォンアプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」を通じて登録された育児ビッグデータの解析にも取り組んでいます。
部長 深見 真紀   臨床内分泌研究室長 鏡 雅代  基礎内分泌研究室長 鳴海 覚志
© 2018 国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部