研究室から臨床へ

代表的な研究成果の一部を簡単に記載します。
詳細の問い合わせについては、深見 (fukami-m*ncchd.go.jp →*を@に変えてください) までご連絡頂ければ幸いです。


<成長遺伝子 SHOX 遺伝子>

私たちは、X 染色体上の成長遺伝子 SHOX を発見し、SHOX 遺伝子が1つ失われると平均12cmの最終身長低下を招くこと、SHOX 異常症が特発性低身長 (原因不明の低身長) 患者さんの約3%を占めることを見出しました。 SHOX 遺伝子異常は、低身長だけでなく、レリーワイル症候群の原因となります。

私たちは、SHOX 異常症患者さんの大部分が、点変異ではなくSHOX 遺伝子またはエンハンサー領域の欠失を有することを明らかとし、本症のスクリーニングに FISH または MLPA が有効であることを見出しています。 さらに、私たちは、成長障害や骨変形が思春期以降の女児に多く男児では軽度であることから、性腺エストロゲンの骨成熟作用が SHOX 異常症の骨短縮と変形の増悪因子であることを見出しました。 したがって、GnRH analog による性腺抑制療法は骨の短縮や変形を軽減できる可能性があると期待されます。


<POR異常症>

POR 異常症は、2004年に疾患概念が確立された新たな先天性副腎酵素欠損症です。 私たちは、これまで国内外の多くの施設との共同研究を行い、本邦において人種特異的変異が存在すること、本症の診断に分子遺伝学的解析と尿ステロイド代謝産物解析が有効であることを明らかとしました。

POR 異常症では、性分化疾患、骨奇形、副腎不全、妊娠中母体男性化等の多彩な症状が認められます。 また、POR 異常症患者さんは、新生児マススクリーニングで 17–OH P高値によって見出されることがあります。

私たちは、全国の多くの施設との共同研究を行い、世界に先駆けて35例の POR 異常症患者さんを遺伝子診断しています。 これにより、はじめて本症の病態が明らかとなりました。 なお、私たちは、日本人特異的創始者変異の存在が本邦における女性外性器異常重症化の原因であること、本症の臨床的多様性がPOR依存性酵素反応の複雑性によって説明されることを明確としています。 さらに、本症の診断に分子遺伝学的解析と尿ステロイド代謝産物解析が有効であることを明らかとしました。 また、本症患者さんの内分泌解析から、ヒトでは知られていなかった胎児期―新生児早期特異的男性ホルモン産生経路の存在を見出しました。


<MAMLD1異常症>

私たちは、X 染色体上の遺伝子 MAMLD1 の変異が、尿道下裂を招くことを明らかとしました。 さらに MAMLD1 変異陽性男性では、小児期の血中男性ホルモン値に異常を認めないことを見出しました。 MAMLD1は、胎児期の男性ホルモン産生酵素の活性化を介して、男性外性器の形成に関与すると推測されます。


<アロマターゼ過剰症>

アロマターゼ過剰症は、男性乳房腫大と性成熟異常を主徴とする稀な優性遺伝病です。 これまで、本症の原因としては、染色体逆位のみが知られていました。 私たちは、6家系においてアロマターゼ遺伝子プロモーター重複および翻訳領域上流微小欠失を同定し、ヒト遺伝病の新たな発症メカニズムを解明しました。 本症の診断にはアレ イCGH と血中高精度エストロゲン測定が有効であると考えられます。 また、私たちは、本症の重症度が患者さんの遺伝子異常パターンに相関すること、本症の治療にアロマターゼ阻害剤が有効であることを見出しています。


<ゴナドトロピン分泌異常症>

私たちは、はじめて TACR3 無機能変異複合ヘテロ接合体患者さんを報告しました。 さらに、患者さんの臨床解析に基づき、本症の性腺機能障害が視床下部の機能障害であることを明らかとしました。


<下垂体機能異常>

OTX2 は、ヒトの無・小眼球症の責任遺伝子としてしられています。 私たちは、下垂体機能低下症合併例において、OTX2 遺伝子変異、欠失を同定し、この OTX2 遺伝子が眼だけでなく、下垂体の発生や機能に関与することを見出しました。 この結果は、無・小眼球症患者のなかに、下垂体機能異常を合併する症例が存在することを示唆しています。 より適切なホルモン補充療法のために、OTX2 変異解析は有用であると思われます。


<14番染色体片親性ダイソミー>

両方の14番染色体が父親に由来する14番染色体父親性ダイソミーは、胎児期より羊水過多、胎盤過形成を呈し、出生後はベル型と形容される小胸郭、臍帯ヘルニアなどの腹壁の異常、特徴的な顔貌などを示します。 私たちは14番染色体父親性ダイソミーの表現型を示すものの14番染色体が両親に由来する症例の解析を通して、調節領域を含む微小欠失やメチル化可変領域のメチル化状態の異常を示すエピ変異症例を見出しました。 これまでに、約20症例を同定し、その臨床情報を集積しています。 これにより、14番染色体片親性ダイソミーの臨床経過、長期予後が明らかになりつつあります。


<シルバーラッセル症候群>

私たちはこれまでに、約90例のシルバーラッセル症候群患者さんの解析を行っています。 本解析では、約30%に第11番染色体短腕末端の H19–DMR (メチル化可変領域) の低メチル化が認められ、約7%に第7番染色体の母親性ダイソミーが同定されました。 さらに、H19–DMR (メチル化可変領域) の低メチル化症例は子宮内胎児発育遅延、生後成長障害、特徴的顔貌、左右非対称など典型的な症状を示しますが、第7番染色体の母親性ダイソミー症例は重度の成長障害、骨格の左右非対称の欠如などを示し、臨床像が異なることを明らかとしました。 また、1例において、これら以外の染色体の微小欠失を同定しました。


<プラダーウイリー症候群>

私たちは、多数のプラダーウイリー症候群患者さんの検体を解析し、本邦における変異パターンをあきらかとしました。 また、微小欠失と第15染色体母親性ダイソミーの発症頻度を比較した結果、近年、母親性ダイソミーが増加していることが見出されました。 これは、同時に母体高齢化が進んでいることから、トリソミーレスキューの増加によると考えられます。


<内分泌撹乱物質と男児外陰部異常症>

多くの内分泌撹乱物質は、女性ホルモン様作用を有し、精巣機能障害を招くと考えられています。 私たちは、このような内分泌撹乱物質の効果を介在するエストロゲン受容体α型遺伝子のイントロン内微小欠失を持つ人が停留精巣やマイクロペニスなどを生じやすいことをみいだしました。 これは、内分泌撹乱物質の影響を受けやすい体質を持つ人がいることを初めて示唆するデータです。